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01/06/06「暗譜残業」
仕事がえりの女は色っぽい。充実と、軽い疲労と、開放感は、働く女性を美しくする。
裕子さんには加えて、落ち着きがある。落ち着きが、美を「妖艶」にする。 そこが、ペーペー会社員のチョコラBBぽい「充実疲労解放美」と一味違って、いい感じなのだ。
ところで、今日の曲は「ムーンライトセレナーデ」。長く取り組んでいる。裕子さんの憧れの曲なのだ。 ウォーキング系のベースラインに加え、ラウンジミュージックならではのセブンスコードが連発するので、意外と弾きにくい。 慣れるまでにずいぶん時間をかけた。いよいよ仕上がり、というところで、裕子さんの教師は暗譜を提案した。 暗譜をするとしないとでは、音楽の浸透が変わる。長く弾きたい曲は徹底的に暗譜をしたほうがよい。
…しかし。このアドバイスにうっかり合意したことを、裕子さんは内心、後悔していた。
今日こそ完璧だと思ってから二回、レッスンではなぜか暗譜演奏をしくじってしまう。 ところが教師ががんとして首を縦にふらない。いつもならこのへんで努力賞、とマルが来るところだ。 「一生弾けるならもう一週くらい、短いものですからねえ」との教師のことばに、裕子さんは微妙に苦笑する。 苦しい暗譜をまた続けることになるからだ。
一方で、教師は考えている。裕子さんは、間違いなく、音楽的に成長してきた。 たとえ長くかかっても、一曲しあげるごとに、両手いっぱい得たスキルを持ち帰る「欲」がある。 暗譜という課題はつらいけれど、この人は必ずやりとげるだろう。ならば待とう。
転んでもただではおきない裕子さんは、暗譜で長引いたのを利用して、 ちょっと気になっていた細かいパッセージ6か所の練習もしてしまう。 残業の待ち時間を利用して、「できればやっといて」と頼まれた資料を仕上げちゃうような要領だ。 本人はちゃっちゃと切り上げたいだろうが、結果的に、暗譜以外のスキルも向上して演奏がよくなっているので教師はほくほく顔だ。
■裕子さん今日の収穫
ラウンジミュージックのベースライン、ブロック分け暗譜練習、上昇パッセージ練習法
■裕子さん今日のオススメ
島田荘司のミステリー
■裕子さん今日のうっかり
朝日新聞をレッスンルームにおき去った